規制・政策
イングランド銀行が保有上限を撤廃し発行上限を設けた — ポンド・ステーブルコインの新ルール
公開日: 2026-06-24
イングランド銀行は6月22日、ポンド・ステーブルコインの規則案を公表した。個人2万ポンド・企業1千万ポンドの保有上限を撤廃し、代わりに商品ごとに400億ポンド(約530億ドル)の発行上限を設けた。準備金の最大70%を国債で運用し利回りを得る道も開いた。決済・フィンテックの創業者は通貨ごとにルールを読み直す必要がある。
何が起きたのか
イングランド銀行は6月22日、政策声明と行動規範の草案を公表した。昨年11月の案から大きく後退した内容だ。核心は三つ。第一に、個人2万ポンド・企業1千万ポンドで縛ろうとした保有上限を丸ごと撤廃した。第二に、その代わりにシステム上重要なポンド・ステーブルコイン商品一つあたり400億ポンド — 米ドルで約506億ドル、報道によっては約530億ドル — の発行上限を設けた。ウォレット単位ではなく発行者単位の上限だ。第三に、準備金の構成も発行者に有利に変えた。満期6か月未満の短期英国債のような利付き資産に最大70%まで入れられ、残り30%は無利息の中央銀行預け金で持つ。保有者へ直接利息を払うことは依然禁止だが、キャッシュバックや積立ポイントのような活動ベースの報酬は認められる。この転換は業界の反発と上院委員会の圧力が引き出した。イングランド銀行自身が「指摘された問題を認識し、算定の根拠を再検討した」と記している。400億ポンドの上限は暫定で、市場が成熟すれば段階的に外す計画だ。意見募集は9月22日まで、規範は年末までに確定、英国規制下のステーブルコインの稼働は2027年が目標だ。
創業者にとっての意味
これは単なる規制緩和のニュースではない。通貨ごとにゲームのルールが分かれ始めた兆候だ。ドル・ステーブルコインは米国のGENIUS法の枠組みで回り、ポンドはこれからイングランド銀行の発行上限と準備金規則の下で回る。同じ「ステーブルコイン」でも、表示通貨によって発行構造・収益構造・参入障壁がまったく変わる。日本の創業者になぜ重要か。国内でも円建てステーブルコインと改正資金決済法をめぐる議論が進み、英国の今回の案は日本の規制当局が参照する可能性の高いレファレンスだ。特に二つの設計が注目に値する。一つ、個別保有上限の代わりに発行者上限を使う方式 — ユーザー体験を損なわずにシステミックリスクを抑える妥協で、だからこそ業界が押した。二つ、準備金の70%を国債で運用し利回りを発行者が得つつ保有者には直接渡さない構造 — 発行者の収益モデルそのものが規制で定まることを意味する。決済・送金・フィンテックを手がける創業者なら、ステーブルコインを決済レールに敷くとき、どの通貨・どの法域を選ぶかがそのまま事業モデルを決める。ルールが通貨ごとに違うからだ。
今できること
まず自社製品がどの通貨のステーブルコインに依存しているかを明確にする。ドル・ポンド・円はいまや別々の規制宇宙にあり、その差が準備金運用・収益配分・発行上限を分ける。次に、収益構造を規制の中で設計し直す。英国が準備金の利回りを発行者に認めたのは発行ビジネスを生かす狙いだ。保有者に利息を払えない代わりに、キャッシュバックや積立でユーザーを獲得するモデルをいまから描く。三つ目、保有者上限型か発行者上限型かを生きた変数として扱う。米国・英国・EU・アジアで調整の仕方が異なるため、どちらが来ても耐える設計が安全だ。四つ目、決済レールを一つの通貨に縛らない。法域ごとにルールが分岐する局面では、複数通貨のステーブルコインを抽象化して差し替えられる構造が、長期に生き残るレールと一つの規制当局の動きで座礁するレールを分ける。
参考資料
- Bank of England backs down on strict stablecoin holding limits, sets $50 billion issuance cap — CoinDesk
- British pound stablecoins capped to $53B ceiling as Bank of England sets out stablecoin rules — CryptoSlate
- Bank of England Eases Stablecoin Rules, Scraps Individual Holding Caps And Proposes £40B Limit — BlockchainReporter