規制・政策
2019年の合意書を消すために、TikTokは1億ドルを上乗せした
公開日: 2026-08-23
和解文書でまず引っかかるのは4億ドルという数字ではない。その金が一度に出ていかないという条件のほうだ。
1億ドルは古い命令書が消える日に動く
米司法省は2026年8月21日、TikTokとバイトダンスおよび関連会社と4億ドルで和解したと発表した。3億ドルはすぐに支払い、残る1億ドルはTikTokの前身であるMusical.lyに対して出されていた同意判決を取り消す決定が裁判所から出た時点で支払う。Musical.lyはリップシンクアプリで、2019年2月に米連邦取引委員会と570万ドルで和解し、そのとき子どものアカウントの扱いに関する命令も一緒に受けている。その命令がまだ生きている。
同意判決は、裁判で白黒をつける代わりに、企業が一定の措置を実行すると裁判所の前で約束する文書だ。一度これがつくと、次に同じ項目で問題が起きたときの争い方が変わる。法律に違反したかどうかではなく、約束を守ったかどうかになる。この一枚が残っているか消えるかの差が、今回の和解では1億ドルという値段になった。
取消しの決定はまだ出ていない。条件付きの金なので、文書のうえでは実際の支払いが3億ドルで止まる余地も残る。事件はカリフォルニア中部連邦地方裁判所にあり、連邦取引委員会から引き継いだ司法省民事局の執行訴訟部が担当した。
570万ドルから4億ドルへ、同じ法律で同じ系譜の会社
二つの数字を並べると倍率はおよそ70だ。根拠となる法律はどちらもCOPPA、13歳未満の利用者から個人情報を集めるには保護者の同意を先に得よという米国の法律である。
司法省が2024年8月2日に提出した訴状は、問題とされた期間を2019年からとしていた。先の和解で命令を受けたあとに流れた年数が、そのまま算定の対象になったということだ。規制コストの見積もりで抜けやすいのがこの部分になる。最初に払った額を上限のように覚えてしまうが、実際の値は、そのあと何年が過ぎたかで付け直される。
日本の線はもう一本別のところにある。個人情報保護法には米国の13歳のような一本の基準がなく、個人情報保護委員会は、同意によって生じる結果を判断する能力の有無という考え方から、おおむね12歳から15歳以下については法定代理人などの同意を得る必要があるとしている。ただし具体的な年齢は、扱う情報の項目や事業の性質ごとに個別に判断すべきものとされる。日米で同じアプリを出すと年齢の区切りが一つでは済まず、ずれが出るのは登録画面よりもデータの保存方針のほうだ。
訴状が指したのは登録画面ではなかった
2024年の訴状の主張は三つに分かれる。まず、2019年以降、13歳未満の子どもが通常のアカウントをつくり、大人と動画やメッセージをやり取りできる状態に置かれ、保護者への通知も同意もないまま個人情報が集められ保管された。次に、13歳未満向けに別に用意したキッズモードの中でも、メールアドレスなどの個人情報が集められ残されていた。そして、保護者が子どものアカウントを見つけて削除を求めても、その依頼がしばしば処理されず、子どもがつくったアカウントを見つけて消すための社内の手順そのものが不十分だとされた。
前の二つは製品設計の話に読める。金額を押し上げたのは三つ目のほうだ。年齢確認の画面はスクリーンショット一枚で説明がつくが、削除依頼の待ち行列はそうはいかない。いつ依頼が届き、何日後に何が消えたかがチケットに日付ごと残り、その記録がそのまま相手側の証拠になる。司法省は、子どもだと会社が把握していた利用者のアカウントと情報すら削除されなかったと書いた。この一文で争いにくいのは、子どもだったかどうかではなく、把握していたかどうかである。
登録ポリシーの変更履歴も項目に入った。利用者が年齢要件を満たしているか判断しにくくなる方向に登録手順を変えた、という主張だ。登録の摩擦を減らして成長指標を上げた判断が、数年後に訴状の一行として戻ってきた。
削除依頼が届いてから何日かかるかを数えよう
未成年が入ってくる可能性のあるサービスを運営しているなら、今週のうちに出しておく数字がある。アカウントとデータの削除依頼にかかった日数の分布だ。平均ではなく、いちばん遅かった5%を見る。訴訟で引かれるのは平均ではなく最悪の一件で、その5%が何件あるかも一緒に数えておく。
次は、把握した時点が記録に残るかどうかだ。あるアカウントが未成年かもしれないという情報が、問い合わせでも社内の報告でも自動検知でも、会社に届いた日付が残っているか。残っていれば、そこから何日で処理したかを説明できる。残っていなければ、いつから知っていたかを決めるのは相手になる。
年齢に関わる画面や方針を変えるときは、理由を一行でも書き残す。生年月日の入力を外す判断は、ダッシュボードでは改善に見え、訴状では別のものに見える。二つの読み方が分かれる場所に残るのは、そのとき書いた一行だけだ。
古い是正命令や和解書が社内に残っているなら、それを開き直すのもこの点検に含まれる。今回、その一枚を消す値段が1億ドルだった。
司法省は発表文の中で、2024年に訴状を出したあとTikTokの資本構成と経営陣、コンプライアンス部門とプライバシー実務が大きく変わり、若い利用者の保護も実際に強化されたと記している。和解額にその改善が反映されたと読める。同じ文書は、今回整理された請求はあくまで主張であって責任が確定したものではないとも述べている。残る1億ドルがいつ動くかは、Musical.lyの同意判決を取り消す決定が実際に出るかどうかにかかっていて、その決定はまだ出ていない。
参考資料
- Justice Department Secures $400M Settlement with TikTok and ByteDance to Resolve Children's Privacy Litigation · U.S. Department of Justice
- TikTok reaches $400M settlement over children's privacy lawsuit · TechCrunch
- Justice Department Sues TikTok and Parent Company ByteDance for Widespread Violations of Children's Privacy Laws · U.S. Department of Justice
- TikTok reaches $400M settlement with DOJ over alleged children's privacy law violations · The Hill
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