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AI・テクノロジー

AIが雇用を奪った証拠は薄い、それでも入口だけが正確に塞がれた

公開日: 2026-07-27

AIと雇用採用市場新卒採用労働経済計測

何が起きたのか

同じ大学から出た二つの結果が、正反対に読める。

スタンフォード経済政策研究所(SIEPR)の政策ブリーフは落ち着いたほうだ。マホニー、マッケンターファー、ワハルの三氏が書いたこの文書は、これまでに得られた証拠から見て、AIがいまの労働市場の状況に与える影響は小さいと整理する。根拠は地味で強い。米国センサス局のデータでは、何らかの業務にAIを使っている企業は5社に1社にとどまる。MITテクノロジーレビューが同じ証拠群をまとめた記事はさらにずれを並べる。AIに強く露出した職種の失業率は、露出の少ない職種より低い。危ないとされる職から安全とされる職へ人が大量に移った形跡もない。コーディング職は、チャットGPT以降に増加ペースが3%ほど鈍っただけで、雇用の総数は伸び続けている。元米労働統計局長でブリーフの著者でもあるマッケンターファーの言い方では、崩壊はまだ来ておらず、備える時間は残っている。

ところが同じ大学のデジタル・エコノミー・ラボの論文は、一点を正確に突く。ブリニョルフソン、チャンダー、チェンの三氏が米最大の給与計算事業者ADPの個人単位データをたどったところ、22歳から25歳の若手がAI露出の最も高い職種で13%の相対的な雇用減を経験していた。企業ごとの景気ショックを統制しても残る値だ。減少はAIが人の作業を補強する職ではなく、置き換える職に集中していた。そして原因が解雇ではない。採用が消えた。若い人が通っていた入口が、静かに閉じたのである。新卒者の失業率は2026年初めに5.6%、3年前より1.6ポイント高い。

創業者にとっての意味

二つの結果は喧嘩していない。総量はまだ動かず、入口だけが閉じたと読めば辻褄が合う。この区別が効くのは、創業者が採用で向き合う現実がまさに入口の側だからだ。

短期的には小さなチームに有利に働く。大企業が新卒採用を止めているあいだ、数年前なら大手に行っていた人が市場に残る。そして初期チームが出せるものは、ちょうどその希少なほうだ。最初から最後まで自分で作る経験である。給与では買えないし、いま売っている会社がほとんどない。

請求書も一緒に来る。AIが食べたのは職そのものではなく入口の作業だ。繰り返しの調査、たたき台づくり、チケットの仕分け、定型のコード。新人が仕事の形を覚えながらこなしていた部分である。それを外すと楽にはなるが、人が実力を積む経路も一緒に消える。3年後のシニアがどこから来るのかについて、業界に答えがない。いま新人を採らない会社は、その支払いを先送りしているだけだ。

日本ではこの断絶が別の形で出る。新卒一括採用という制度が入口を人為的に維持しているぶん、米国のように採用がすっと消える形にはなりにくい。代わりに、入ってきた新人に割り当てる仕事が空洞になる。従来の育成は最初の一、二年に単純作業を積ませて現場の勘を渡す設計だったが、その作業をAIに投げると渡すものがなくなる。メルカリやLINEヤフーのような技術志向の会社でも、ここは既存の研修設計では埋まらない。

計測の話も外せない。チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの集計では、2026年上半期にAIを理由に挙げた人員削減の発表が101,743件、全体の23%あった。一方で学術的な実測は総量の変化を捉えられていない。この差は、企業が削減の理由としてAIを選んでいることを示す。需要の鈍化や採り過ぎと書くより、AI移行と書くほうが株価に良いからだ。発表文をそのまま市場シグナルとして読むと外す。

今できること

新人の枠を一つ開けてみる。同じ予算で数年前より良い人が来る。ただしその枠を、AIがすでにやっている仕事で埋めてはいけない。募集要項には5年後も人がやっている仕事を書き、それを学ぶ順序も一緒に設計する。人員削減の発表を市場情報として使うときは、会社が挙げた理由を外し、実際の人員変化と売上を並べて見る。理由は広報文で、人員は事実だ。